むかし友人にむけてラフに哲学や思想についての入門書を紹介した文章があったので、それを転記します。
(*は難易度)
・西谷修『夜の鼓動にふれる』***
思想史的な見取り図から戦争と現代を考える講義録。現代思想や、現代史の初歩の勉強になるだけでなく、自分の頭で、手づかみでものを考える基礎を学ぶことができる本(僕の思考法の核になってます)。ただし、少し難解かも。
・石田英敬『現代思想の教科書』***
言語、記号、イメージ、無意識、文化、欲望、権力、身体、社会、情報、メディア、産業、戦争、宗教、国家、ジェンダーなど、さまざまな観点から現代の諸問題を思想的に考えた本。トピックが多岐にわたるので、やや説明が不十分な箇所もあるが、全体を見渡すのにとてもいいです。
・片岡一竹『ゼロから始めるジャック・ラカン』**
かなりわかりやすく精神分析について勉強できる本。たぶんこれ以上最適な精神分析の入門はないと思う。精神分析が哲学や思想とどう関係あるの?と思われるかもしれないが、実は精神分析は哲学を裏側から覗き込む営みだった。「我思うゆえに、我あり」とデカルトが告げてから、近代哲学は「私」を出発点に展開してきたが、精神分析は、この「私」を問い直し、私にとって「私」が最も深く暗く、遠いところにあることを明らかにした。
・國分功一郎『暇と退屈の倫理学』**
きっといま手に入る日本語の本では、哲学・思想の入門書として最適。わかりやすい日本語で、私たちの身近な体験に即して、哲学を進めることができる。一冊読むならまずはこれ。楽しいと思います。
・内田樹『先生はえらい』*
こちらもめちゃくちゃ平易な言葉づかいで、手探りで哲学的にものを考えることを助けてくれる。ひとがひとを好きになったり、尊敬したり、成長したりする原理のわからなさがわかる。 タイトルを難しく言い直すなら『偏愛の現象学』と言えるだろうか。現代思想に関心のあるひとは同著者の『寝ながら学べる構造主義』もおすすめ。
・佐々木中『切りとれ、あの祈る手を』**
どうやら響かない人には、まったく響かないらしい本。でもハマる人にはハマる。僕もどっぷりハマってしまったタイプで、僕はこの本に出会ってしまったからこそ、音楽を、社会運動を、哲学をはじめてしまった。人間が人間である限り、文学によって、芸術によって、哲学によって、革命は可能なのだということをこれほど高らかに歌った本はたぶん他にない。
・藤原保信『自由主義の再検討』***
自由主義とか、社会主義とか、とにかく政治とかを哲学的に考えてみたい人が最初に読むべき本。はじめて読んだときは明晰さに驚いた。どんな政治的立場のひとも読んでみて、自分がどんな立場なのかを再検討してほしい。
・岡野八代『ケアの倫理』***
古代から、哲学や思想は男性たちを中心に作り上げられてきた。現代の基本的な政治システムの元ネタとなった近代哲学、近代政治思想においても、自律的で、理性的で、他者に依存しない、独立した強い男性個人がこの社会を構成する最小単位として想定されてきた。これに対して、人間は他人に依存せず、ケアされずに生きることなどできませんよね? と根本から異議を申し立てたのが、フェミニズムの政治哲学だった。フェミニズムの入門書としても、ケアの倫理の入門としても決定版だけれど、しっかりしているぶん、まあまあ難しいので注意。
・岡真理『アラブ、祈りとしての文学』**
文章がとにかく美しく、内容も素晴らしいのでひとまず買って、とにかく読んでほしいタイプの本。個人的には岡真理さんの他者との倫理的な距離の取り方、バランス感覚が素晴らしいと思う。突き放すことなく、寄り添いすぎて同一化することもない、純然たる他者として、他者に真摯に向き合う姿勢をここから学ぶことができる。勇気をもらえる。
・岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』**
普通にがっちりとした哲学の入門書を読みたいんですよね、という人にはコレ。ギリシア思想の第一人者のひとりが、わかりやすく解説してくれている。岩波ジュニア新書は中高生向けに書かれているはずなのだけれど、玄人が読んでもうなるくらい発見がある。
・木田元『反哲学入門』***
普通にがっちりとした哲学の入門書を読みたいんですよね、という人にはコレも。哲学の歴史すべてをひっくり返そうとしたニーチェに強く焦点を当てながら、これまでの哲学を相対化しつつ、現代思想の起点になった発想を解説している。まあまあむずいけどとても好きな本。
・ニーチェ『ツァラトゥストラかく語りき』(佐々木中訳)**********
いやいや入門とかはいいんで、ガチの哲学書を読んでみたいんですよ〜という人にはまずこれ。誰でも読めますが、誰も読めません。澄んだ水面のような、よく磨かれた鏡のような書物。ここから何を汲み取るかは、あなたしだい。
・フーコー『監獄の誕生』*****
いやいやニーチェの『ツァラトゥストラ』なんて子供だましじゃんか〜、もっとガチな哲学書を読んでみたいんだけど〜、という人にはこれ。最初はクッソ難しく思えるけど、思い切って体当たりしてみるとめちゃくちゃ面白い本。時間割にはじまり、席の割り当て、ノルマの設定、偏差値、業績ランキング、監視システム、管理システム、身体操作まで、現代の学校制度、会社制度、病院制度は、実はなにもかも監獄のシステムに由来していたという話。最初にあまりにグロテスクな公開処刑の描写があるが、この本を読み終えると、自分たちの生きている日常のほうがそれ以上にグロテスクに見えてくるという危険な書物。難しすぎて手も足も出なかったよという人には重田園江『ミシェル・フーコー:近代を裏から読む』がおすすめ。
・プラトン『国家』****
いやいやいやフーコー読んでみたけどこれ哲学というより歴史学とか社会学なんじゃないの?もっと本格的な、哲学の古典っぽいものを読みたいんだけど、という人にはこれ。「哲学の歴史はすべてプラトンの注釈に過ぎない」と言われるほどに、古典中の古典。しかもめちゃくちゃ読みやすい。思い切ってトライしてみてほしいです。
・エピクテトス『人生談議』****
役立つ哲学を知りたいという人にはこれ。自己啓発本の古典。あるいはこれが難しいなと思ったらマルクス・アウレリウス『自省録』もアリ。こちらも元祖自己啓発本。
・カント『純粋理性批判』**************
一番高い山のひとつをちょっとみてみたい人はこれ。普通に無理です。